(注)三角縁神獣鏡
  古代中国の神話に登場する神仙・霊獣を浮彫風に表現した鏡のうち、周縁部の断面が三角形状に突出する鏡をいう。直径20cmをこえる大型品が多く、後漢代(25〜220)の神獣鏡や画像鏡の流れをうけて、3世紀に製作されたもので、景初3年(239)正始元年(240)など中国の三国時代(220〜80)(魏・呉・蜀)の魏の年号をもつ紀年銘鏡を含む。
  舶載鏡とされるものだけで330面以上が出土し、日本の古墳出土鏡中最も多いが、中国や朝鮮半島では出土例がない。京都府の椿井大塚古墳からは33面以上出土、奈良県にある黒塚古墳からも33面が出土、各地に同じ鋳型から造られた「同笵鏡」(どうはんきょう)が分布しており、当古墳に葬られた者を含めた近畿地方の大親元を通じ、全国の首長に配布されたと考えられている。
  「魏志倭人伝」には、景初3年、魏に朝貢した邪馬台国の女王卑弥呼に銅鏡100面を下賜した記事が見えるが、三角縁神獣鏡は、倭への下賜品として魏が特別に製作した鏡であるとする説が有力である。邪馬台国と魏の間には以後も頻繁な交渉が続いており、秦始2年(266)には台与が西晋に朝貢している。三角縁神獣鏡は型式変化の点からも、これら一連の交渉に伴い、複数のタイプが継続的に輸入されたと考えられる。近年三角縁神獣鏡の国産説、呉のトライ工人製作説なども出されているが、定説を覆すには至らなかった。
(注)舶載鏡
  日本で出土する鏡のうち、中国で製作され日本に伝来したものをいう。弥生時代には精白鏡や明光鏡などの前漢の鏡、四神鏡や内行花文鏡などの前漢中期から後漢の鏡があり、古墳時代には神獣鏡や画像鏡など三国・六朝時代の鏡が多数発見されている。
◆神獣鏡
  中国古代の鏡の一形式。背面に神像と龍・虎の獣形がおもな文様として用いられた。中国で後漢から六朝時代にかけて行われ、日本の古墳からの出土例も多い。大阪府の黄金塚古墳出土の「景初三年」銘をもつ魏の鏡も神獣鏡である。
◆画像鏡
  漢式鏡の一種。中国の後漢から六朝時代にかけて作られた鏡で鏡背の文様が後漢の画像石に類似したものをいう。中国古代の神仙思想を表す東王父、西王母などの神人像・狩猟・交戦・車馬。音曲歌舞などの風俗図、有名な歴史物語を図示するもの、あるいは仏教の影響を受けた飛天図もある。内区をちちで4等分して図が配置され、外区に流雲文・禽獣文・画像文・鋸歯文などをめぐらす。浙江省紹興の古墳群から後漢、三国時代の紀年鏡とともに出土した数百面の画像鏡は著名。また、江南地方、朝鮮の楽浪古墳からも出土する。日本では中国製画像鏡が古墳から発掘される例が多く、和歌山の隅田八幡宮の癸未年銘鏡のよう中国鏡を模倣した鏡(ぼう製鏡)も作られた。